新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、社会のデジタル化が急速に進行し、それに伴い情報格差が社会の分断を加速させている。情報格差への対応が急務である。

COVID-19のパンデミックが生み出す新たな地平

 COVID-19のパンデミックは、これまでの人々のコミュニケーションのあり方、モノの流れを大きく変えた。人の物理的な移動は制限され、直接人と会うのではなく、メール、チャット等、インターネットを通じたコミュニケーションが代替手段として活用されるようになった。実際、全世界でのインターネットの接続数はCOVID-19の感染拡大期に50~70%上昇し[1]、電子商取引(Eコマース)の数は、2020年1月から6月の間に37%上昇した[2]。ルワンダでは、ロックダウン後、モバイルマネーによる送金が450%に拡大した[3]。今や10億人以上がモバイルによる支払いを利用している[4]。COVID-19 の蔓延は、デジタル社会への移行を大きく推進させる要因となった。

情報格差が社会の分断を加速する

 国際電気通信連合(ITU)では、2018年には世界の96%の人々が、携帯電話のネットワーク圏内で生活していたと推定している[5]。しかしながら、インターネットに接続している人々は、世界全体の3分の2にすぎない。北米では90.3%の人々がインターネットを利用しているのに対し、アフリカでは平均47.1%、南スーダンでは7.9%、ブルンジでは9.7%である[6]。

 インターネットの活用状況は均質ではない。居住している場所、貧富の差、年齢や性別等で大きく異なっている。例えば、サブサハラアフリカでは、地方に住む人々は都市に住む人々より58%インターネットを利用していない[7]。

 インターネット利用状況の所得階層による差異に関しては、インターネット接続料金の高さとIT端末の購入価格の高さが阻害要因となっている。接続料金に関して、ICTやブロードバンド技術の持続可能な開発への活用促進を目的としてITUとUNESCOが設置した「持続可能な開発のためのブロードバンド委員会(Broadband Commission for Sustainable Development)」は「月間1GBのデータ使用料金を月当りGNIの2%以下とする」との目標を掲げているが、サブサハラアフリカでは1GBの接続料金は月当りGNIの6.8%に相当する[8]。IT端末の購入代金は、サブサハラアフリカでは68.5%、サブサハラアフリカの低所得層20%の人々にとっては、月当りGDPの375.2%、つまり月収の3.7ヶ月分に相当する。接続料金およびIT端末の購入価格が高いため、低所得層にとってインターネットの利用は困難な状況になっている。

 ITリテラシーも課題であり、IT機器の操作方法を理解しなければIT機器を使いこなすことができない。ITリテラシー以前に、途上国では、初中等教育を受けていないため、会話はできても読み書きができない人々が多く存在する。このため、読み書きの能力、IT機器の操作方法の習得が障害となり、初中等教育を受けていない人々や高齢者がインターネットを利用できない環境に追い込まれている。社会のキャッシュレス化が進んだスウェーデンでは、現金で買い物ができない店が増えているが、その結果、高齢者や移民などITアクセスやITリテラシーで制約を受けている人々が社会から疎外される状況が生まれている[9]。

 インターネットの利用率は、男女間でも格差があり、女性の利用率は男性より23%少ない[10]。特に南アジアでの男女格差が顕著であり、女性のソーシャルメデイアの利用率は男性の3分の1である[11]。男女間の格差は、初中等教育の格差、家庭内における女性の地位、財産の所有権の格差の他、インターネット上でのハラスメントに対する警戒感等が影響していると考えられる。

 社会のデジタル化が進み、物理的に人と人が会わなくても日常の社会が回るようになった現在、ITアクセスのない人々が社会から取り残される状態が発生している。例えば、遠隔教育により、ITアクセスがある人々は教育施設が閉鎖していても教育を受けることができるが、ITアクセスのない人々は教育施設が再開しない限り、教育を受けることができない。社会のデジタル化は遠隔教育を受けられる人々にとっては高度で快適な教育環境を保障するが、遠隔教育を受けられない人々は教育を受けられないまま取り残されることになる。遠隔教育が導入される以前であれば、ITアクセスの有無は教育機会の差異に大きな意味を持たなかったかもしれない。しかし、社会のデジタル化が進行し、遠隔教育が重要な教育ツールとして活用される中、ITアクセスの有無が教育機会の差異に決定的な影響力を持つことになる。教育機会の差異は、雇用機会の差異を生み、所得階層の差異を生む。これがさらなるITアクセスの差異や教育機会の差異を形成する。ITアクセスの有無が社会の分断ラインとして大きな意味を持ち、デジタル社会の恩恵を受けられる人々と取り残される人々に社会が二分化される。社会のデジタル化の進行とともに新たに生まれる格差を解消する努力が必要である。

情報格差にいかに対応するか

 情報格差を埋めるために、国際社会、各国政府は、社会のITインフラの拡充を急ぐべきである。これにより都市と地方の格差、社会の脆弱層への支援を行う必要がある。またIT端末へのアクセスを容易にするため、医療業界におけるジェネリック医薬品の活用と同様、IT分野においても安価なIT端末の普及拡大が求められる。またネットカフェのようにIT機器を個人で所有するのではなく、人々の間で共有できるスペースを広げる必要がある。ITリテラシーに関しては、初中等教育の普及、IT教育の促進が必要であるともに、誰でも操作しやすいユーサーフレンドリーな操作性の追求も必要である。

 現在、社会の格差が、ポピュリズムの台頭を招き、移民・難民など新たに社会に参入したグループを排斥するなど、社会を不安定化させる要因となっている。社会のデジタル化は、これまで社会に存在した格差を固定化するとともに、デジタル化の波に対応できない人々を新たな社会的弱者として生み出すことになる。分断のない包摂的な社会の実現のために情報格差への対応が急務である。

(2021/1/6)

脚注

  1. 1 Mark Beech, “COVID-19 Pushes Up Internet Use 70% And Streaming More Than 12%, First Figures Reveal,” Forbes, March 25, 2020.
  2. 2 J. Clement, “COVID-19 impact on global retail e-ecommerce site traffic 2019-2020,” Statista, November 3, 2020.
  3. 3 Issabelle Carboni and Hennie Bester, “When digital payment goes viral: lessons from COVID-19’s impact on mobile money in Rwanda,” Cenfri, May 19, 2020.
  4. 4 The Tokenizer, “Digital finance, a lifeline during COVID-19 crisis, can deliver long-term financing of the Sustainable Development Goals,” The Tokennizer, August 26, 2020.
  5. 5 ITU/UNESCO Broadband Commission for Sustainable Development, The State of Broadband Report 2019: Broadband as a Foundation for Sustainable Development, September 2019, p.3.
  6. 6 Internet World States: Usage and Population Stats, “Internet World Stats: Usage and Population Statistics: 2020 Year-Q3 Estimates,”
    Internet World States: Usage and Population Stats, “African 2020 Population And Internet Users Statistics: Internet Users Statistics for Africa.”
  7. 7 Broadband Commission for Sustainable Development, op.cit., p.14.
  8. 8 Ibid, p.9. 同報告書によれば、一人当たりの月間インターネットデータ使用量(2017年)は、世界平均で28.8GB、米国では98.7GBである。
  9. 9 Maddy Savage, “The Swedes rebelling against a cashless society,” BBC, April 6, 2018.
  10. 10 Broadband Commission for Sustainable Development, op. cit., p.17.
  11. 11 Simon Kemp, “Digital in 2020: New Decade, New Milestones,” Digital 2020: Global Digital Overview, Data Reportal, January 30, 2020, p.3.